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株式会社ニチレイ(東京都中央区)

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株式会社ニチレイ
(東京都中央区)

【写真】金澤さん、酒井さん、関さん 株式会社ニチレイは1945年(昭和20年)設立。加工食品事業と低温物流事業を中心に、水産・畜産事業、バイオサイエンス事業、不動産事業などを展開している。
従業員数は、連結対象のグループ全体を含めて15,766名(2023年3月現在)。
今回は、人事部ニチレイ健康推進センター 副センター長の酒井麻路さん、 統括保健師の関範子さん、保健師の金澤小也香さんからお話を伺った。

全国の従業員を公平に切れ目なく支援するため、健康推進センターを中心に、産業医やエリア保健師などと連携しながらグループ全体の健康管理体制の整備を進めている

まず、産業保健体制ができた経緯と、現在の産業保健体制、連携の状況などについて、酒井さんを中心にお話を伺った。

「当社は2005年に持株会社体制に移行しました。それ以前は、異なる事業領域が一つの会社となっていたのですが、持株会社体制、つまり事業会社制とすることで、それぞれの事業会社がきちんと売上利益を達成していくところに注力できるようにしました。現在は、4つの事業会社を有しています。」

「ただ、持株会社体制にしたことによって、健康管理の責任主体が不明確になり、従業員の健康管理が行き届かなくなりました。定期健康診断をきちんと受診していなかった、生活習慣病を放置していたといったことが生じるようになり、2012年から2014年には、現役で働いている方で亡くなる方の人数が増加するという非常に残念な結果を招いてしまいました。」

「このため、『働きがいの向上は従業員の健康がベースである』という考え方にあらためて立ち戻り、ニチレイグループ従業員の健康保持増進を経営課題として取り組むこととし、2015年に健康推進グループを設置し、2018年に“健康推進センター”という組織に改組しました。私たちがグループ横断で健康管理を行っていく、健康経営を推進していく、という体制を確立しました。」

「健康推進センターには現在12名が所属しており、そのうち6名が保健師、その他の6名はセンター長や私、事務職などとなっています。また、当社は北海道から沖縄まで事業所がありますし、たとえばニチレイロジグループでは数人から数十人という小規模の事業所が点在していたり、ニチレイフーズでは300名から500名の食品工場があったりと、業種も規模も多様です(【図1】参照)。そうした中で、どのように健康管理を行っていくかということについて、幅広く意見交換をした結果、 各エリア担当の“エリア保健師”を置くことにしました。現在は、業務委託する形で、東北に1名、関西に1名、九州に2名、エリア保健師を置いており、今後他のエリアにも展開していく予定です。」


【図1】全国拠点の特徴

「もちろん各事業会社の人事管理部門とも連携をとりながら対応しています。また、50人以上の事業場では産業医も選任しています。産業医については、以前は事業場ごとに契約していましたが、産業保健の内容にばらつきがあることが問題でした。そのため現在は、私たちが直接業務委託契約をして各事業場に配置するという形にしています。業務委託先が産業医を管理しているので、全国どこの産業医も同じ目線で業務ができるようになってきたと感じています。(【図2】参照)」


【図2】健康推進センター管理部連携型推進体制

「エリア保健師と本社保健師とのミーティングは月1回行っていて、どの事業場に訪問してどのような相談を受けたのか、といった情報の共有を行っています。異動によって所属エリアが変わる従業員もいますので、継続的なフォローが必要な人の情報についてはフォローシートを作成して共有し、支援が途切れないようにしています。全国の産業保健体制を整備した目的の一つが、全国の従業員を公平に切れ目なく支援するということでしたので、その実現のために連携を進めています。」

「また、健康推進センターとエリア保健師とのミーティングも月1回行っています。そこでは、面談等から把握された健康や職場環境に関する課題について意見交換して、必要に応じて担当部署に共有するなどしています。たとえば、保健師との面談の中で、実は不妊治療をしているが誰にも言っていないという話が出てきたときに、私たちは女性の健康に関する施策も行っていますので、施策にどのように反映していけば会社に伝えるハードルが低くなるのか、といったことを考えたり、深夜業務を行っている方の食生活が不規則になっていることがわかったときには、ヘルスリテラシーをどのように上げるかということを考えてセミナーを企画したりしています。保健師が事業場に訪問して直接現場の方と面談して現場からの声を拾い、それを施策につなげるという流れが効果的だと考えています。」

「また、今年(2023年)から医療職会議というものを開始しました。50人以上の事業場に配置している産業医約40名と、本社保健師、エリア保健師、事業場で健康管理を行っている担当者、健康推進センターが参加しています。課題の共有などを行っているのですが、少しずつ整理できてきていますし、産業医と保健師とのコミュニケーションもスムーズになってきています。」

現場への丁寧な説明や現場に合わせた面談の調整、動画を通じて保健師を知ってもらうこと、経営のコミットメントなど、様々な工夫を重ねることによって支援が現場に浸透している

次に、健康推進センターによる支援が現場にどのように浸透してきたのかについて、関さんを中心にお話を伺った。

「保健師が訪問をはじめた当初は、訪問の目的などを、各事業会社の人事部門から事業場トップを通じて現場責任者にも伝えてもらい、その際に必要があれば私たちから説明する、ということを丁寧にやってきました。はじめは『保健師って何者?』、『何しにきたの?』といった抵抗感も感じました。しかしながら、“従業員の現役死亡をゼロにする”という会社の方針を示し、従業員の健康を少しでも改善したいということを丁寧に粘り強く説明しました。このような訪問を重ねることで、少しずつ協力体制ができてきました。」

「面談の日程は、事業場にとって一番いい形を相談しながら調整しています。たとえば、工場のラインに入っている方ですと途中で抜けることは難しいので、ライン担当責任者の方に面談の予定を組んでもらって、その時間はラインを抜けて面談にきてもらうという形をとっています。また、ドライバー業務の方は戻り時間が変動的なので、細かい面談予定は組まず、保健師が2名で訪問して、帰ってきた順に面談するという形で行っています。夜勤の仕事をしている方については、オンライン面談も活用しています。」

「当初は健康診断で医療が必要となった方の事後措置の面談だけ実施していたのですが、せっかく各事業場に訪問するので、それ以外の相談も受けられることをお伝えしていたら、メンタルヘルスや両立支援に関する相談をしたいといった声が出てくるようになりました。訪問を繰り返す中で、保健師の活動内容がずいぶん浸透してきたと感じています。」

「こうした取組みが進みやすい背景には、経営層とのコミットがしっかりできているというところが一つあるのではないかと考えています。健康経営は当社の“人財戦略5つの観点”のうちの1つに位置づけられていて、会社の方針として行っていくものと、私たちも自信をもって説明できるというところがあります。そして、経営層には丁寧に説明すれば理解いただけることも大きいと思います。」

メンタルヘルス関連のeラーニング 「また、保健師が動画で説明するメンタルヘルス関連のeラーニングを作成していることも事業場訪問に前向きな影響を与えていると感じています。事業場に行くと、“ニチレイのYouTuberが来た”と言われることもあり、知っている人がきたという感じで、受け入れてもらいやすくなっていると思います。eラーニングコンテンツは、オンライン会議システムを録画する形で、すべて私たちが手作りしています。現在はセルフケアとラインケアの10分くらいの動画を3本ずつ作っています。受講必須とはしていないのですが、社内のネット環境に接続可能な9割以上の従業員が見てくれています。」

「その他、“ニチレイ健康塾”という社内セミナーを2016年から実施しており、現在は毎月1~2回開催しています。内容は、メンタルヘルス関連の他、高血圧や脂質、生活習慣病、管理栄養士からの栄養や食事の改善提案や、運動指導士による運動の提案など、幅広く実施しています。コロナ禍以前は集合形式での開催だったのでなかなか人が集まりませんでしたが、コロナ禍を機にオンライン開催に変更したところ、東京までは来られないけどオンラインなら参加できるという従業員が増えて、今では各回100名ほどが参加するセミナーになってきています。」

「研究職、ドライバー、工場のラインなど、様々な働き方をしている従業員がおり、ヘルスリテラシーの程度も様々ですので、同じように説明してもうまくいかないこともあるのですが、そこについて皆で取り組んで進めていくことができたと実感しています。目に見える成果が出るというところまではなかなかいかないのですが、従業員の年齢が上がる中で健康水準が維持できているというのは一つの成果なのではないかと考えています。」

現場の声を大事にしながら柔軟かつ丁寧に研修や面談体制などを一つひとつ構築しており、現場がそれを上手に活用するという良い循環が生まれている

最後に、職場のメンタルヘルス対策の具体的な取組みについて、金澤さんを中心にお話を伺った。

ニチレイ健康推進センターの従業員「健康推進センターでは、様々な課題に対応するため、チームを作っています。現在は、フィジカルチーム、メンタルチーム、産業保健体制チーム、女性の健康チーム、両立支援チームなどが動いています。各チームは、事務管理企画の担当者と保健師で構成されていて、施策のボリュームに応じて3~5人体制になっています。そのうちメンタルチームのリーダーを担当しているのが金澤です。」

「メンタルヘルス対策については、まずセルフケア研修をオンラインで毎月実施しています。基本編という一般的な内容のものを繰り返し実施していて、年に1回どこかのタイミングで受講できるよう全従業員に案内しています。また、そのうち2回は応用編として、実際に受けている相談内容の傾向を踏まえて研修内容を検討して、外部講師に話をしていただくという形で実施しています。」

「ラインケア研修についても、去年(2022年)までは基本編として実施して、手上げ制で参加してもらっていたのですが、役職者からのメンタルヘルスに関する相談が増加している現状を踏まえて、今年から必須研修に変更しました。役職者が1,600名ほどいるので、4年間の中で全員必ず一度受けていただくという形にしました。新たなラインケア研修では、オンラインでの研修を受けた上で、都内にある研修センターに全国から集合してもらい、ロールプレイや事例検討を含めた研修を半日かけて実施しています。事例の内容は、私たちがよく相談を受けている内容を講師とすり合わせて決定しているので、参加者からは“最近似たような相談を受けた”という声をいただくこともあります。」

「そして、オンライン研修と集合研修をどちらも受講した役職者は、“こころのサポートチーム(COCOサポ)”に所属していただくという形にしています。小さい事業場の中には役職者が1人しかいないところもあり、1人で孤軍奮闘しなければならない方もいますので、チーム化したいと考えました。チャットグループを作って“COCOサポ”に認定された方を追加して、定期的に情報提供を行ったり、ラインケア研修を“COCOサポ育成制度”と呼んでいるのですが、“COCOサポ育成制度”に参加した方の写真を載せたりしています。私たちもサポートしながら、皆でラインケアを行っていくんだという雰囲気を作っているところです。」

「集合研修にすると、北海道や沖縄などの方はその日一日仕事ができなくなってしまうので、当初はためらいもありました。しかしながら、大事なテーマですし、受講頂ければ役職者の武器になると思いましたので、実施に踏み切りました。研修を通じて、“こういう風に対応すればよかったのかもしれない”などと言ってくれる方も増えてきていますし、役職者が半日一緒に時間を過ごすことで、その中で対話が生まれて悩みが共有できたり、こういうことをやったらちょっとうまくいったといった成功事例の共有の機会にもなっています。」

オンライン保健師面談の様子 「他にもストレスチェックで高ストレス者だった方への対応について、産業医がいない事業場は本社の産業医が“医師による面接指導”を実施しています。以前は、それぞれの事業場近くの“地域産業保健センター”を活用していたこともあったのですが、ニチレイグループの職場の状況をわかっている産業医に面接指導を実施してもらいたいとの考えから、変更することにしました。そして、“医師による面接指導”には、本人の了承が得られたら必ず保健師が同席するようにしています。一回の面談で終了するのではなく、産業医が対応した内容を保健師が引き継いで、本人や職場にお伝えしたり、その後のフォローにつなげたりしています。オンラインでの実施の場合も同様の体制として事後のフォローも丁寧に行っています。」

「また、ストレスチェックの結果を活用した職場環境改善活動を2020年から本格的に始めました。まず事業会社人事管理部門にフィードバックをしています。加えて、各事業場のトップ並びに担当者へもフィードバックを行い、たとえば高ストレス者率が上がっているなど変化があった際には、何か変化があったかなどを尋ねるようにしています。職場環境改善が必要な場合はお手伝いしますよといった形でお声がけをしています。」

「昨年(2022年)度には、高ストレス者率と総合健康リスクが高い事業場にアプローチしたいという声を事業会社から受けて、厚生労働省の“メンタルヘルスアクションチェックリスト”を活用して行いました。まず、職場環境改善調査として、“メンタルヘルスアクションチェックリスト”を参考に自職場の“よくできているところ”と“改善したいところ”を事前に挙げてもらいました。そして、その結果を踏まえて検討会を行い、改善策を作り、実施して再度検討会をする、という流れを1クールとして、6か月間で3クール実施するという取組みを行いました。3クール実施するというのは事業会社からのアイディアだったのですが、3回PDCAを回さなければいけないので、何かしらやらなければならないという状況をまず作り、実際に改善が目に見えるという体験をさせる仕組みづくりはとても興味深かったです。私たちだけではこのような発想は出てこなかったと思うので、現場が自分たちで自分たちの職場をより良くしていこうという気持ちの成果だと思います。」

「事業会社が事業場の様子に合わせて考え、希望や要望を伝えてくれているので、集団分析結果の説明の切り口も要望に応えていますし、職場環境改善の取組内容も事業会社の意向を大事にしています。これからも現場と連携してニチレイグループ全体のメンタルヘルス対策を進めていきたいと考えています。」

【ポイント】

  • ①全国の従業員を公平に切れ目なく支援するため、健康推進センターを中心に、産業医やエリア保健師などと連携しながらグループ全体の健康管理体制の整備を進めている。
  • ②現場への丁寧な説明や現場に合わせた面談の調整、動画を通じて保健師を知ってもらうこと、経営のコミットメントなど、様々な工夫を重ねることによって支援が現場に浸透している。
  • ③現場の声を大事にしながら柔軟かつ丁寧に研修や面談体制などを一つひとつ構築しており、現場がそれを上手に活用するという良い循環が生まれている。

【取材協力】株式会社ニチレイ
(2023年12月掲載)